罪状認否(第1回公判)


1. 本件行為は、パブリック・フォーラムたる電柱に、河内音頭の盆踊りへの参加を呼びかけるビラを1枚貼付したという軽微かつ単純なものでありますが、これは憲法上保障された表現の自由の行使にほかならず、したがってビラ貼りの目的・手段・状況やビラの形状・数量等、具体的事実に基づく厳格な法益衡量がなされる必要があります。ところが、今回適用された法令である京都市屋外広告物条例の保護法益は「都市の景観の維持及び向上」という不明確で抽象的なものであり、このような曖昧な法益を保護するために表現の自由というより極めて重要な権利を規制し、形式的に一律処罰することは、利益衡量として明らかに均衡を失していると言わざるを得ません。また警告や、除却命令といった行政的措置を先行させることなく、いきなり逮捕・留置の上、刑事罰を科そうとする今回の一連の手続きは、最小限規制の原則やLRAの基準に違反しており、適用において違憲であると思います。

2. 今回、被告人がビラを貼った現場である東一条交差点は、京都大学に隣接し、学生サークル等による立看板が林立する地域であり、付近の電柱や街路樹には演劇、ライブ等の告知ビラが常時多数貼られていました。また、本件当該のビラは、たかだかB5サイズの大きさにすぎず、色彩も淡いクリーム色であり、貼付した枚数もわずか1枚であることから、周囲の景観に悪影響を及ぼす度合は極めて限られたものでありました。したがって、このようなケースは、法益侵害が絶対的に軽微な場合として処罰に値せず、そもそも構成要件該当性が存在しないものと考えられます。
 また、仮に百歩譲って構成要件に該当するとしても、法益侵害が相対的に軽微である場合、「当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否か」という判断基準にしたがって、実質的違法性が阻却され得る場合があるということは、最高裁の判例も認めるところであります。そこで、本件における実質的違法性阻却事由を整理してみると、
 第1に、今回のビラ貼りが、地域の盆踊りの案内表示という極めて公益性の高いものであり、かつビラに「参加無料」と表記されていることからも営利性の全く存在しない催しであることは明らかであり、目的の正当性が認められます。
 第2に、問題のビラ貼りが催しの本番からわずか3日前に行われていることからも分かるように、当該ビラは広告ではなくむしろ会場案内という性格が強いものでした。したがって、催し終了後は即座に撤去するつもりでしたし、またその際撤去を容易にするために、ビラの上下をガムテープでとめるという簡単な貼付方法をとっており、撤去後に何の痕跡も残さないものでありました。また美観の点でも、現場周辺はすでに多数のビラ、ポスターが貼られていたことから、特に美観維持の必要が高い地域であるとはいえず、当該のビラが小型でわずか1枚であることからも、本件には手段の正当性が認められます。さらに表現の自由との法益衡量からも、ビラ貼りは経済的に恵まれない者にとってほぼ唯一の廉価な大衆的伝達手段でありますから、その行使が正当化されるといえます。
 第3に、被告人は事件当時、電柱に非営利のビラを貼ることが違法であるとの認識を全く持っておらず、また付近に公共の掲示板等が存在していない状況を鑑みても、いわばやむを得ない行為としての必要性が認められます。
 よって、以上3点の事情を考慮すれば、本件は法益侵害が相対的に軽微であって実質的違法性が阻却されるべき事案であると判断されることから、無罪の判決を言い渡すのが相当であると思います。

3. すでに述べたように、事件当時、被告人は京都市屋外広告物条例なる法令の存在を知らず、本件行為が違法な行為であるとは認識していませんでした。あえて言えば、ピンクチラシ等の「有害ビラ」を、繁華街の電話ボックスや電柱などに貼れば、何らかの条例によって処罰されるだろう、程度の曖昧な認識しか持っていませんでした。そしてそのような条例が、今回のような非営利のビラまでその処罰の対象としているなどとは想像したこともありませんでしたし、京都大学周辺がビラ貼りの規制対象区域に入っているとの認識もありませんでした。なぜなら、大学周辺には常に雑多なビラが氾濫していましたし、そのようなビラを貼ったことで検挙されたなどという話を一度も聞いたことがなかったからです。
 ところで、本件は行政刑罰法規に関わる事件でありますから、単にビラを貼るという生の事実の認識だけでは足りず、「禁止区域内において禁止物件にビラを貼る」という認識が必要になります。本件行為がいわゆる「法律の錯誤」ではなくむしろ「事実の錯誤」に基づいて行われたと解するのが相当であるとすれば、ここでは規範的構成要件要素の認識、すなわち意味の認識が必要となり、これを欠けば故意責任が認められません。ところが、当該の京都市屋外広告物条例が定める規制項目は極めて煩瑣にわたっており、また、市当局がその規制内容について広く市民に周知させる努力を怠っていたこともあり、当時被告人を含む一般市民がその禁止物件、禁止区域について明確に認識し得る可能性は皆無であったと言わざるを得ません。したがって、被告人が京都大学周辺をその規制の及ばないものと誤解し、あるいは非営利ビラは処罰の対象とならないと誤信して当該ビラ貼り行為を行ったとしても、被告人に非難されるべき落ち度があるとはいえないのであり、したがって本条例違反の故意は阻却されるべきものであると思います。

4. 最後に、被告人逮捕時における本件捜査の違法性について述べたいと思います。被告人が逮捕された時の状況について、川端署の警察官は甲9号証において「現場においての説得も長時間にわたり、また、被疑者は自転車から降車しようとせず逃走のおそれも考えられたことから、現場において京都市屋外広告物条例違反の被疑者として現行犯逮捕した」と報告していますが、実際のところ、現場における警察官の説得はわずか40分ほどにすぎず、その間、被告人はビラをすぐに撤去する旨、さらには現場よりすぐ西側へ行ったところにある東一条交番においてなら取り調べに応ずる旨を繰り返し申し出ていたにも関わらず、有無を言わさずパトカーに乗せて川端署に連行したものであります。また、職務質問当初より被告人は自らの運転免許証を警察官に手渡していたのであり、免許証を渡したまま逃走することが不合理であることからも、逃走の恐れがなかったことは明らかであり、上記の警察官の証言は事実に反しているといえます。
 したがって、本件逮捕は被疑者の住所・氏名が明らかであり、かつ逃亡や罪証隠滅の恐れが全く存在しない状況下において行われたものであり、事件が単純・軽微であることを鑑みても、また川端署連行後は供述に素直に応じたことからしても、逮捕によって川端署へ引致された7月1日午前3時より、検察庁送致後、略式命令に仮に応じて釈放されるまでの7月2日午後5時までの約38時間にわたる留置継続には刑事訴訟法第203条第1項の違反があると言わざるを得ません。よって、このような捜査段階における手続き的違法は公訴提起の効力を失わせるものであり、この場合は判決により公訴を棄却することが相当であると思います。

以上

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